本稿では、高気密・高断熱住宅を建てる前に知っておいていただきたい基礎知識をご紹介します。エコで快適に暮らせる住宅の建築にご興味がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
ご存知かもしれませんが、国が高気密・高断熱住宅の普及を推進していて、いずれスタンダードになる見込みです。しかし、高気密・高断熱については、否定的な意見も散見されます。これから家を建てるなら、いったいどうすればいいのでしょうか。
今後の家づくりは、否が応でも「高気密・高断熱」について意識せざるを得ません。この機会に、高気密高断熱について学んでみましょう。
高気密・高断熱住宅のメリットとデメリット
高気密・高断熱住宅は「完全無欠の次世代住宅」ではありません。一長一短がありますので、誰にでもあうものではないでしょう。まずはメリットとデメリットをご紹介しますので、ご自分にあいそうかご検討ください。
高気密・高断熱住宅のデメリット
まずは、デメリットを3つご紹介します。
火気を使うヒーターが使えない
石油ストーブやガスファンヒーターなど燃料を燃やして暖を取る機器は、定期的に換気が必要です。高気密・高断熱住宅ではさらに一歩進んで、利用を控えていただくほうがよいでしょう。
高気密・高断熱住宅と相性がいい暖房器具は「エアコン、床暖房、蓄熱暖房、全館空調システム」など空気を汚さない機器です。
建築コストがかかる
高気密・高断熱住宅は「高性能断熱材、断熱性能が高い窓や玄関ドア、気密テープ」などが必要で、非高気密・非高断熱住宅にくらべて建築資材費が高くなります。施工も専門的な技術が必要になりますので、職人の手間賃も上がります。
適切な換気が必要になる
高気密・高断熱住宅には、計画された換気が必要です。換気が上手くいっていない高気密・高断熱住宅は、以下の不具合を起こす可能性が高くなります。
- 結露リスクを高める
- 熱気やニオイがこもる
- 二酸化炭素濃度が高くなる
- シックハウスやアレルギー疾患のリスクを高める
ですから、高気密・高断熱住宅を建てるときは、確かな実績を持った建築会社に依頼されることをおすすめします。経験豊富な建築会社なら合理的にコストダウンするノウハウも持っているので、先述した「建築コスト」の問題も軽減してくれるでしょう。
なお、気密と換気性能が高い住宅は乾燥しやすくなります。これもデメリットと捉えられることがあります。
高気密・高断熱住宅のメリット
つづいて、高気密・高断熱住宅のメリットを3つご紹介します。
快適な室温で過ごせる
高気密・高断熱住宅の長所と言えば、まず思い浮かぶのが「温度環境の快適性」でしょう。家の保温能力が高いので、家中の温度差をカンタンになくせます。
高気密・高断熱住宅なら、冬の廊下や脱衣室でも凍えずに済みます。快適な温度環境は体へのストレスを軽減しますので、ヒートショック等の事故も減らせます。
ちなみに国土交通省の調査によると、室温18度以下の住宅に住む人は、18度以上の住宅に住む人にくらべて以下の傾向があるそうです。
- 総コレステロール:2.6倍
- 心電図異常所見あり:1.9倍
- ヒートショックリスク:約1.8倍
このようなリスクが減らせるなら、医療費の軽減も期待できるでしょう。
光熱費が安くなる
高気密・高断熱住宅は保温能力が高いので、少ないエネルギーで部屋の温度を一定に保ちやすく、冷暖房効率が高くなります。年間の光熱費削減効果は、東京でおおよそ以下のとおりです。
- これまでの住宅と一般的な省エネ住宅(省エネ基準)の差 ⇒ -61,008円
- 一般的な省エネ住宅(省エネ基準)と高度な省エネ住宅(ZEH基準相当)の差 ⇒ -62,955円
家が長持ちする
機密性や断熱性が低いこれまでの住宅は、冷暖房をかける時期に壁がしっとり濡れることがあります。これは、室内の温度と壁の中の温度に差が生まれ、結露が生じて起こった現象です。このような状態を放置すると、壁の中がカビだらけになり、木材は腐り始めます。
いっぽう、高気密・高断熱住宅は壁内に結露が生じにくく、家が長持ちします。カビの繁殖も防ぎやすいので、それに起因する喘息(ぜんそく)やアレルギーになるリスクも下げられます。
余談ですが、高気密・高断熱住宅の性能をさらに高めて長期優良住宅の認定を受けると、減税制度(住宅ローン減税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税)や住宅ローン金利引き下げ制度(フラット35)も利用できるようになります。
高気密・高断熱住宅とは?
そもそも、高気密・高断熱住宅とはいったいどんな住宅なのでしょうか。高気密・高断熱住宅の特徴や定義、基準をご紹介しましょう。
高気密・高断熱住宅の特徴や定義
さて、高気密・高断熱住宅はどんな住宅なのでしょうか。「高気密」や「高断熱」の基準はどうなっているのでしょうか。まずはそこから解説しましょう。
高気密高断熱の特徴
「高気密・高断熱」は、省エネや居住空間の快適性を表す表現のひとつです。高い機密性と断熱性を備えた住宅は、少ないエネルギーで「夏は涼しく、冬は暖かい」環境にできます。
具体的には、夏は外気や太陽の熱をできるだけ入れず、冬は室内の熱をできるだけ逃がさない性能が高気密・高断熱住宅には求められます。
非高気密・非高断熱住宅とくらべた場合、高気密・高断熱住宅の特徴は以下のとおりです。
- 建築コストがアップする
- 光熱費が大幅に下がる
- 快適な温度環境で過ごせる
現在、住宅の高気密・高断熱化は過渡期で、建築会社によって性能差が大きい状態です。いずれは安定するでしょうが、今はまだ、建築を依頼する会社をよく見定めなくてはなりません。
高気密とは
住宅における「高気密」とは、建物の隙間をできるだけふさぎ、空気の出入りを少なくした状態を指します。住宅を高気密化することで、以下のメリットがあります。
- 隙間から外気が侵入しにくくなる(隙間風を防げる)
- 快適温度の室内の空気を捨てずに済む
- 空気の出入り口が明確で、計画的な換気がやりやすくなる
高気密住宅には「計画換気」が必須ですが、高気密であること自体が換気に役立ちます。家のそこら中に隙間があると、計画換気ができません。穴の空いたストローで水が吸えないのと、同じ理由です。
機密性能は「C値 (相当隙間面積)」で表されます。C値は隙間面積(㎠)を延べ床面積(㎡)で割って算出しますので、数値が小さいほど気密性能が高いことになります。
高断熱とは
住宅における「高断熱」とは、家の保温能力が高い状態を指します。外皮(屋根や外壁、床など)をすっぽりと高性能断熱材(熱伝導率が低い)でくるむことで実現します。
断熱性能が高い家の室内は「魔法瓶」に例えられ、冷暖房効率がよい環境になっています。室内の壁が結露しにくくなりますので、住宅の長寿命化も期待できます。
住宅の断熱性能は「Q値 (熱損失係数)」や、それに変わって使われ始めた「UA値 (外皮平均熱貫流率)」で表されます。両方とも数値が小さいほど熱の出入りが少なく、高断熱と言えます。
高気密・高断熱住宅の基準
高気密・高断熱住宅の指標として、C値やUA値をご紹介しました。それぞれ、どの程度の数値なら「高気密・高断熱」と言えるのでしょうか。順番に見ていきましょう。
高気密の基準
通称「省エネ法 (1979年施行)」にもとづく省エネ基準が1999年に強化され「次世代省エネルギー基準」になりました。この基準にC値の目安が載っています。
- 北海道、青森、岩手、秋田 ⇒ 2㎠/㎡以下
- その他 ⇒ 5㎠/㎡以下
しかし、2009年の改正省エネ法からはC値の目安が削除され、現在は基準となる数字がありません。とは言え、高気密と高断熱はセットで効果を発揮するものです。高気密・高断熱住宅にとって、C値を小さくする努力は欠かせません。
現在「高気密・高断熱」をうたう建築会社を見渡すと、C値が「1㎠/㎡」を切る住宅を建てている会社もめずらしくありません。
高断熱の基準
現在、断熱性能を表す基準は「断熱等性能等級」と「UA値」が用いられています。
断熱等性能等級は1から4まであり「住宅の品質確保の促進等に関する法律 (通称:品確法)」にもとづく「住宅性能表示制度」で評価方法が定められています。この等級は数字が大きいほうが高性能で、長期優良住宅は「等級4」の断熱性能が必須です。
なお、断熱等性能等級は時代とともに基準が上がっており、現在は等級4が標準になりつつあります。高気密・高断熱の意識が高い建築会社ではさらにその上を目指していて、もはや等級4が「高性能」とは言えない状態です。
いっぽう、UA値は外皮(屋根・外壁・窓など)の断熱の性能に関する基準で、熱の逃げやすさを表します。UA値は、日本を8つの地域にわけ基準が定められています。東京23区(地域区分6)を例に必達値をご紹介しましょう。
- 平成25年省エネ基準:0.87(断熱等性能等級4、Q値2.7相当)
- ZEH(ゼッチ)基準:0.6
上述のUA値をご覧いただくとわかるとおり、長期優良住宅よりZEH住宅のほうが少し厳しい基準になっています。しかし、この数字でもまだ足りないということで、一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会(通称:HEAT20)が以下の基準を提唱しています。
- G1グレード:0.56
- G2グレード:0.46
実際のところ、欧米諸国の省エネ規制を見ると、ZEH住宅レベルのUA値(0.6)でも後れを取っていると言わざるを得ません。現代の世界的な省エネの流れを考えると、上述の「G2グレード」程度は目指していくべきでしょう。
長期優良住宅・ZEH住宅・LCCM住宅とは?
さて最後に、度々登場した長期優良住宅やZEH住宅、それからLCCM住宅について解説しておきます。
長期優良住宅の断熱性
長期優良住宅とは、長く良好な状態で住みつづけられるように構造や設備に対策がなされた住宅のこと。認定基準を満たす設計をおこない、維持保全計画を作成して、着工前に所管行政庁へ申請する必要があります。
この長期優良住宅の認定基準の中に「省エネルギー性」の項目があり、断熱等性能等級4を満たすことが必須となっています。
長期優良住宅については、以下の記事で解説しています。もっと詳しく知りたい方は、あわせてご覧ください。
ZEH(ゼッチ)住宅とLCCM住宅の断熱性
つづいて、ZEH住宅とLCCM住宅について解説します。
ZEH住宅とは?
ZEH住宅はネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略で、簡単に言うと「省エネ、かつ太陽光発電による創エネがおこなえる住宅」です。快適な温度環境で過ごせて、さらに「家で使うエネルギー量 ≦ 家でつくるエネルギー量」となる住宅性能が求められます。
ZEH住宅の認定を受けるには「強化外皮基準」というのを満たす必要があります。この基準は地域ごとにUA値(外皮平均熱貫流率)とηA値(いーたえーち、冷房期の平均日射熱取得率)で設定されています。
- UA値:熱の逃げやすさを表わす
- ηA値:日射の入りやすさを表わす
ZEH住宅に関しては、以下の記事で解説しています。もっと詳しく知りたい方は、あわせてご覧ください。
LCCM住宅とは?
LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅とは、住宅のライフサイクルを通じてのCO2(二酸化炭素)の収支をマイナスにする住宅のこと。「住宅のライフサイクル」とは、住宅の一生(建築~居住中~解体撤去~処分)と捉えていただくとよいでしょう。
LCCMは、断熱等性能等級4程度の住宅でも、たくさん太陽光発電を載せることでクリアできます。しかし、補助金(国土交通省「サステナブル建築物等先導事業 (省CO2先導型)」)の交付を受けるならZEHと同じく強化外皮基準を満たす必要があります。
LCCM住宅については、以下の記事で解説しています。もっと詳しく知りたい方は、あわせてご覧ください。
高気密・高断熱住宅のメリットとデメリットまとめ
高気密・高断熱住宅は冷暖房効率がよく、省エネで光熱費が安くなります。ですから、これまでの住宅より簡単に家中を快適な温度にできます。その結果、体への負担が減り、様々な病気になるリスクも下げてくれます。
ただし計画的な換気が上手くできていないと、熱やニオイがこもったり結露を生じさせたり、不具合が発生するケースもあります。また気密・断熱性能を高めるための建築資材や職人の手間賃が高額で、建築費用が高くなる点も注意が必要です。
現在、世界中が省エネ・脱炭素へと進んでいて、住宅においては高気密・高断熱住宅が主流となっています。しかし、まだまだ過渡期で、建築会社によってその性能やコストダウン能力に差があります。
これから高気密・高断熱住宅を建てるご予定の方は、失敗や後悔を避けたいのであれば、実績豊富な建築会社にご依頼ください。