建築物の敷地や構造、設備、用途に関して最低限の基準を設定している法律、『建築基準法』が2025年4月より改正されます。この改正は住宅を新築する方にとってもリフォームやリノベーションを行う方にとっても影響があります。しかし、建築基準法は日ごろ関わりが少なく、そもそもよく知らないため、何がどのように改正されるのか、そのことで家づくりにどんなメリットやデメリットがあるのか、よく分からないというのが一般的です。

そこで今回は、建築基準法の改正によって、新築とリフォーム・リノベーションにどんな影響があるのか、施主としてどんなことを意識しておくべきなのかを、ご説明したいと思います。

1. 新築に関わる法規制とは?

まずは、建築基準法の改正が新築に与える影響を、施主の目線で確認してみましょう。改正されるポイントはいくつかありますが、そのうちの2ポイントをここでは取り上げます。

■新築住宅で省エネ基準への適合が義務化

エネルギー消費の3割を占めるとされている建築の分野で地球温暖化対策を図ることを目的として、今回の改正で省エネ基準の適合が義務化されるようになります。省エネ基準として、一次エネルギー消費量等級4以上かつ断熱等級4以上の適合が必要となります。

さらに、省エネ基準を満たしているかを確認するチェック機能として建築確認申請が用いられるようになります。今までは、「4号建築物」に分類されていた木造2階建てや木造平屋建て(延べ面積200㎡超)は、4号特例という制度により、建築士が設計や工事監督を行っていれば確認申請等を省略できていましたが、改正により4号建築物は廃止され、木造2階建てや木造平屋建て(延べ面積200㎡超)は、「新2号建築物」に区分されて、すべての地域で省エネ適合基準に関するチェックが加わった確認申請が必要となります。

改正によって、どのハウスメーカーで建てても一定の省エネ基準を満たした家になりますが、省エネ基準を満たした仕様にするために、工期自体も長くなるうえに、手続きや審査も加わり、今よりも建築期間の長期化が予想されます。特に改正直後の2025年4月には手続き等で、行政や現場が混乱する可能性も高いので、来年の新築を予定している場合は、余裕をもって進めておきましょう。

■必要な耐力壁の量がおよそ1.6倍増に!

省エネ基準の適合が義務化されることで、断熱材を入れ、高性能サッシを使い、太陽光パネルを屋根に載せることで、建物の重量はアップします。重くなった建物でも構造上の安全性を保てるように、柱を太くして耐力壁の量を増やすといった、仕様基準も改正されます。改正後には、壁量計算における壁量が現行のおよそ1.6倍になります。

耐力壁の量が増えて、今後新築は全て一定の基準を満たした、地震に備えた安全な家になる一方で、木造在来工法の家では、壁の量や太い柱によって大空間が作りにくくなるというデメリットがあります。出来るだけ広い空間を作りたいと思っている方にとって、構造上、広さに限界が出てくる可能性があるということです。また、材料も増えるので材料のコストも上がってしまいます。

2.リフォーム&リノベーションに関わる法規制とは?

ここからは、リフォームやリノベーションが法改正によってどんな影響を受けるのかをご説明したいと思います。

■確認申請が必要な家が増える!

今までの建築基準法では、リフォームやリノベーションを行う場合、「床面積が10㎡以上増える増築」や「鉄骨2階建てや木造3階建ての大規模リフォーム」のみ確認申請が必要だったため、大規模リフォームであっても多くの家が確認申請を行う必要がありませんでした。しかし、今回の改正から「木造2階建て以上」や「木造平屋建ての延べ面積200㎡超え」の場合は確認申請が必須となります。屋根や壁、柱、梁、床、階段といった主要構造部のうち1つでも半分以上の修繕や模様替えをすると確認申請の対象となります。

そのため、間取りを変えたり、階段を掛け替えたり、床を下地から張り替えたり、屋根の葺き替え、外壁サイディングの張替えといったリフォームを行う時に、今までは不要だった確認申請が必要となるので、手続きや準備に手間と時間がかかるようになります。

しかも、築年数が古い家の中には、図面を無くしてしまっていたり、増改築を繰り返して図面通りの構造や間取りではなくなっていたりすることも多く、確認申請前に、壁や床を剥がして内部を確認する必要や新たに図面を用意する必要があるかもしれません。さらに、今までのリフォームが法律を守らずに施工されていたり、建てられた当時は問題がなかったものの、今の建築基準には合わなくなっていたりすると、今の基準に合わせるために、本来のリフォーム以外のリフォームや費用がかかる可能性もあります。

■再建築不可物件に当てはまると希望のリフォームが出来ない場合も!

道路が狭いエリアや住宅密集地では、建築基準法にある、災害時に消防車や救急車が通れる広さを確保する、幅4m以上の道路に2m以上接していなければいけないという「接道義務」を満たしている必要があります。接道義務がなかった時代に建てられた家の中には、条件を満たしていないために、今の建物を解体して更地にし、建て直すことが出来ない「再建築不可物件」が多くあります。今までは、建て替えるのではなく、間取りを変更するなどのリノベーションを行って、少しでも暮らしやすい家に整えることが出来ていました。

しかし法改正後には、木造二階建ての間取りを変えるようなリフォームでも確認申請が必要となるため、再建築不可物件では申請が通らず、内装材の張替えや設備機器の交換といった確認申請が必要のないリフォームに留めて、希望通りのリノベーションが行えない可能性があります。

築年数の古い家をリフォームする場合は、家が建っている地域が、「都市計画区域」もしくは「準都市計画区域」に該当していないか、再建築不可物件に当てはまっていないか、市区町村の都市計画図で確認しておきましょう。

3. まとめ

2025年の建築基準法の改正によって、新築やリフォーム、リノベーションも影響があります。新築であれば、省エネ基準の適合が義務化されるので、確認申請に省エネ基準のチェックも加わります。しかも、今まで確認申請が省略化されていた、木造2階建てや木造平屋建て(延べ面積200㎡超)の4号建築物は廃止され、新2号建築物に区分されるので確認申請が必要となります。また、省エネ基準を満たすために、建物の重量が重くなることから、耐力壁の量が増えることや、太い柱が必要となることによって、大きな空間を作れない可能性があります。さらにリフォームやリノベーションでも、新2号建築物が主要構造部のうち1つでも半分以上の修繕や模様替えをすると確認申請が必要となったり、再建築不可物件では申請が通らず、希望通りのリノベーションが行えなくなったりするかもしれません。

2025年4月の建築基準法の改正で、地球に優しく、省エネで耐震性の高い家を安定して建てられる一方で、改定前と比較すると時間や手間がかかったり、希望通りの施工が出来なかったりするので注意しておきましょう。